TAROUPHOISM

INAGUAQUI TAROUPHO QUOTES
真四角な家のついでに、「六角館」を紹介しよう。それは、自分が関西学院普通部にいた頃、二階教室の窓から、しょっちゅう南方の畠の真中に眺めていた一軒家で、水色に塗られた古い西洋館である。玄関から廊下が一本、弦楽器の柄のように付いていた。いつだって人影がないので、みんなは化物屋敷だと云っていたが、そうでもなかった。われわれの英語の先生が、この突当りの、二階建てになっている部分の階下を借りて、六方の壁を一杯の本で埋めているのを、自分は知っていた。何年か経って、ある暑い日に、その野中の一軒屋に、前衛画家の浅野孟府をたずねたことがある。彼らはちょうど引越し準備中で、六角館の二階や階下、庭先に、紙片や毀れたオブジェが一杯散らかっていた。このお河童組は、三角帳場の小さな喫茶店兼酒場に屯して、店々のデザインや飾付けに傭われているらしかった。西灘駅の近くで、海水浴から帰ってくる河童頭の半裸族に出食わすこともあた。孟府は破れてはらわたがはみ出たソファーに掛けるように私に云って、「女子鶏姦図」の舶来絵葉書を見せてくれた。私については、孟府は、「よく喋る男だな」とあとで感心していたそうだが、いったいに話下手で、物の云い方が曖昧なのは、前衛気質の特徴で、今日でも多少あとを曳いている。
- 改訂増補 「ロバチェフスキー空間を旋りて」

凡そ宇宙論者は、ユニフォーミリタンとカタストロフィストに大別出来ますが、ボンディやホイルは前者であり、ルメートルやガモフは後者に属します。僕自身もそうです。何故ならこちらは、宇宙がともかく一つのイヴェントに向っているということを信ずる者であるからです。星雲らが爆発的に誕生したにせよ、常に創造されつつあるものにせよ、それが進化の途である限りはその目標がなければなりません。ホイルばりの「定常宇宙」に拠ると宇宙起源の難問が避けられます。かつ滅亡から宇宙を救い出すことも可能です。しかしそれは永劫輪廻の悪夢の中に宇宙を見棄てることになるのではありませんか?
- 「僕の”ユリーカ”」

ティコの天の城には、印刷局まで備わっていました。銅版画に残っている彼のラボラトリーは、まるでお伽噺の魔法館です。主人のティコの鼻がまた銀細工の鼻でした。これは決闘で本当の鼻を殺がれたことによるのでした。しかも、その災難の日は、彼が占星学上から定めていた厄日だったのだそうです。事の起りは数学上の議論とか、女出入りとか。彼の天文台の入口には、「こはウラニアへの門出なり。低き憂いは蔑まる」と彫りつけてあったと云いますから、真相は案外、地上的ウラニアの方にあったのかも知れません。
- 「僕の”ユリーカ”」

q-q-q:

稲垣足穂全集第5巻 「僕の”ユリーカ”」筑摩書房 2001年

q-q-q:

稲垣足穂全集第5巻 「僕の”ユリーカ”」

筑摩書房 2001年

地球と月との間をめぐりながら

地球のなかへ引っぱりこんでくれる手を

待つより他に仕方のなかった男

- 「一筆啓上」

寝苦しいので出て行った。さすが夜半になったか人々は姿をひそめて、後甲板の籐椅子には赤い葉巻の火が一つ見えているだけであった。近頃めずらしいいいハヴァナの匂いが、船の進行につれる風にもかかわらず、いやその晩はいやにしずかでそれで僕の鼻へ香ってきてそのいい品であることがよく知れた。そんなことで私は知らず知らずにその白い服をきている紳士のとなりの椅子に坐をしめていた。スクルーにかき乱されて行く波にちらちらひろがるバクテリヤのかがやきを見て、タバコに火をつけようかと、ぼんやりしているとき。「ねえ蒸暑い夜です」とその顔のよくわからない白服の紳士が別に特長もない、しかし素性正しい英語でもって私に云いかけた。私はそれに軽くうなずいた。紳士は続けた「ユーアレイニア号が沈んだのはここあたりじゃありませんか」
「そう」と私も気もとめずに云った。そんな事もいつかあったようである。
「このへんに幽霊が出ますってね」と紳士は云った「しかしえらいものです。戦争この方お化けなんかはなくなってしまいましたからね」
紳士はそう云って星のまばらにうるんでいる方を見上げたようだった。私はふり反った。そこには誰もいなかった。
- 「白服の人」

「彗星倶楽部」

「彗星倶楽部」

そもそもド・ジッター博士に依ると、宇宙とはこのような円錐体として抽象さるべきものであり、その頂点にユートウピアがある。普通の星々は只円錐面にそうて軸とは直角的に、螺旋経路を保ちながら徐々としてユートウピアめざして登攀するが、彗星にあっては、直接的に上方へ飛ぶのが特徴である。即ち彗星はボルシェヴィキであり、サンジカリストである。けれども、そこが円錐面であるために、向こう側へ辷り落ちるが、落下の運動量は彗星をチャージすることとなり、不閉塞楕円的追求は、ついに楕円軌道を直立させてユートウピアに到達せしめる。ではこの彗星はいったい何者がなるのか?普通の星が正規の進路に飽いた時、また何らかの情熱に燃え上ったさいに、だしぬけに脱線して彗星化するのであるが、これがためには、地球上にもしばしば出現する天才や革命児についてのジョルジュ・ソレルが述べているところと興味ある一致を示して、どの星も、彗星になるためには、一種の神話的条件を信じなければならない。
-

「彗星倶楽部」

「スコラ派の坊主共でさえ針の先にエンゼルが、何人坐られるかを計算しようとしたでないか。 」


すみれ、すみれ、真白い固いカラーと、それから口では云えない、洒落た、可憐な或るものを想わせるすみれ。翼ある白衣の御使いとつながっているすみれ。更にまた、何故かハインリッヒという名前を連想させる薄い紫色の花すみれよ!
- 「菫とヘルメット」

「このあいだやってこられた宮様が喫っておられたがね」と、店先の硝子壜にはいっている飛行船形の葉巻について、友達が説明した。「これは強いよ。われわれが吸うと鼻血が出るよ。」
- 「菫とヘルメット」